6-7-6-1. 人間の尊厳は、各自の個性の尊厳にと具体化する
人間は、理性的自律の営為を根本とし万物の霊長として至高で尊厳をもった存在である。各人、人類の理性を分有し、したがって人類の尊厳を分有して、各個人が尊厳を有している。個は、類を具体化、特殊化した個別として、さらに、それ固有の尊厳をも有している。個人は、社会の中で自身の能力を生かした使命を担うことがある。使命は類・全体が個人に託する類的なもので、卓越した個に担われる。その使命は、個の尊厳となり、個の自尊心を満たす。宇宙飛行士は、卓越した者に託される使命として、これに類の前衛としての使命感を抱いて、人類のためにと命をかけている。それは、その個の卓越性を語り、尊厳を有した使命であるとともに、人類、人間の尊厳を明かしているということになる。
人類は、理性的存在において至高で尊厳を有するが、それは、個体において具体化し、各分野に、より優れてふさわしい個を生み出している。個は、その分野において、卓越したものとして、得意な方面に自身を生かして全体の中に役立っていき、自身の生きがいを見出すことになる。数学的能力に秀でた者は、そういう方面においての人類の理性能力を生かしていく。それは、その個人の理性的能力の尊厳を明かすことであり、同時に人類の理性の尊厳を証することでもある。
ひとは、身体をもち自然感性をもった者でもある。各人に個性的なものがそこにもある。理性のリードのもと、身体的に技術的に自身の高い能力をもって、優れた技術者となり、スポーツマンとなる。それは人類の能力として、類の卓越性となるのでもある。芸術家は、感性的に特殊な能力があり、画家であれば、同じ白色でも一般の者には、区別のつかないものを区別できる能力をもっていて、その方面ではだれにもまねのできないことが可能となる。それは個人の卓越した能力であるが、また、人類の能力ということであり、尊厳ということになる。人類の能力がそういう個人において開花・結晶しているのである。
平凡、劣等と意識している個であっても、かれは、この時空間において、唯一の個性をもって存在しているのであり、決して代替できない実存である。固有の過去を背負い、固有の未来に生きる。永劫の時間と無限の空間のうちで、ただ一人自分が占有する時空間をもって、唯一のかけがえのない存在、自己意識を有した貴い存在として生きている。この自己意識をもった主観は、世界の中心に存在しており、自分がなくなれば、その世界も消滅する。人である限り、類として尊厳の核である理性を担い、その個にしかない過去と未来に、類的能力・特性をもって唯一のかけがえのない存在として生き、人としての尊厳を有した個として存在し生成していく。他律によらず、理性のもと自律的に自己が自己を未来に向けて作って自己実現していく存在として、その各個体は、比較を絶して尊厳であり、唯我独尊の絶対的な存在である。比較不能の絶対的実存として、万人が万人ともに、その実存において、尊厳を有する。